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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)157号 判決

主文

原判決主文第一項中左記第二項に該当する部分及び同第三項を取消す(但し、第一審原告が当審で取下げた金三〇万円の部分を除く)。

第一審原告の第一審被告四方田喜一に対する請求中金一七九万三、〇〇九円を超える部分(この部分に対する年六分の損害金に関する分を含む)の請求を棄却する。(但し、上記取下げられた部分を除く)。

第一審被告四方田喜一のその余の控訴を棄却する。

第一審原告の本件控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その三を第一審原告、その二を第一審被告四方田喜一の負担とする。

事実

第一審原告訴訟代理人は、第二五〇号事件につき、「原判決中第一審原告の第一審被告四方田園子に対する請求を棄却した部分を取消す。第一審被告四方田園子は第一審原告に対し金二一〇万円及びこれに対する昭和三四年一月一八日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審を通じ第一審被告等の負担とする」との判決、第一五七号事件につき控訴棄却の判決を求め、第一審被告両名訴訟代理人は、第一五七号事件につき、「原判決中第一審原告の第一審被告四方田喜一に対するその余の請求及び同四方田園子に対する請求は、いずれもこれを棄却する、との部分を除き、その他の部分を取消す。第一審原告の第一審被告四方田喜一に対する請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審共第一審原告の負担とする。」との判決、第二五〇号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張、証拠の提出、認否及び援用の関係は、左記を附加するほかは、原判決事実摘示の記載と同一であるから、これを引用する。(但し、原判決六枚目表四行目に九二万二千円とあるのは九一万二千円の誤りと認めるから、これをそのように訂正する。)

第一審原告訴訟代理人は、次のように述べた。

一、第一審被告等主張の二の事実は、(ハ)及び(ホ)の消費貸借成立の事実を除きすべて争う。債務者が任意に支払つた約定利息は、法定の制限利率を超過する額を含んでいても、元本への充当を許すべきではない。のみならず、第一審原告は、第一審被告等の主張するごとく継続的な貸付を約したものでもなく、貸付及び担保権の設定は契約の都度個別的になしたものである。また、第一審被告等主張の(イ)の消費貸借は元金五〇万円の消費貸借で、弁済も元金五〇万円としての弁済を受けたものであつて、元金二〇〇万円の消費貸借ではない。同(ロ)の消費貸借を約した事実はない。同(ニ)の消費貸借も新たに金八〇万円を貸与したものではなく、(ハ)の貸金について昭和三二年一二月三〇日内金一一〇万円の弁済を受け、残元金九〇万円が未払で残存していたに過ぎず、この債権に対し本件家屋を代物弁済として受領したものである。

二、原審において右(ロ)及び(ニ)の各消費貸借の成立及び弁済の事実を認めたのは、第一審原告本人と訴訟代理人との間に連絡不十分の点があり、訴訟代理人の錯誤に基づいてなしたもので真実に反するから右自白を取り消す。

第一審被告等訴訟代理人は、次のように述べた。

一、第一審原告がその主張の約束手形をその主張の日に支払のため呈示したことは認める。

二、仮りに、従前主張の代物弁済の事実が認められないとすれば本件約束手形の基本となつた借受債務について、左のとおり制限利息超過支払額の元本への充当を主張する。すなわち、

(一)  第一審被告四方田喜一は、第一審原告から、従前主張の借受債務のほかに、昭和三一年二月一三日金二〇〇万円を弁済期日同年一二月二五日、利息月四分の約定で、一ケ月分の利息金八万円を天引のうえ借り受けたが、その際第一審被告四方田喜一は、第一審原告から金二〇〇万円ないし金三〇〇万円を将来にわたり数回継続して借り受け、借受元金の一部を弁済しても直ちに借増をなし、利息は月四分の前払とし、右債務の担保のため、本件家屋に金二〇万円の抵当権設定登記及び代物弁済契約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、その被担保債権の範囲は登記簿上の被担保債権額にかかわらず借受残元利金の全額とすることを約定した。第一審被告四方田喜一が従前主張した本件約束手形の基本債務を含む借受債務も、いずれも、右約定に基づいて継続的に借り受けたものである。従つて、これらの債務は、元金の一部を弁済しても元利金の清算をなすことなく、返済と借り入れを繰り返し、その間残元金について利息制限法所定の制限利率を超過する月四分の約定利息を前払して来たものである。

(二)  然しながら、債務者が利息制限法所定の制限利率を超過する利息を支払つたときは、それが任意に支払つた場合であつても、天引利息と同様に、制限超過部分は債務の残存する限り元本に充当さるべきものと解すべきであるから、これによるときは、各借受債務の弁済関係は次のとおりとなる。

(イ)  昭和三一年二月一三日借受金二〇〇万円について

第一審被告四方田喜一は、前記のごとく第一審原告から昭和三一年二月一三日金二〇〇万円を利息月四分、毎月一三日前払、弁済期日同年一二月二五日の約定で借り受け、利息一ケ月分金八万円の天引を受け手取金一九二万円を受け取り、約定の弁済期日にこれを弁済したが、その間毎月一三日約定利息として金八万円宛(但し、同年一二月一三日支払分は同月二五日までの金三万四、六六六円)、合計金八三万四、六六六円を支払つた。

よつて、右天引利息を元金に充当し、支払利息のうち制限利率年一割五分を超過する部分を各残元金の内払に充当するときは、別紙第一表記載のとおり、弁済期日における残元金は金一三八万六、五三八円となり、同日元金二〇〇万円を支払つたので差引金六一万三、四六二円の過払となる。

(ロ)  昭和三一年七月三〇日借入金三〇万円について

第一審被告四方田喜一は、従前主張のとおり、第一審原告から昭和三一年七月三〇日金三〇万円を利息一ヶ月四分、毎月前払、弁済期日昭和三二年七月三〇日の約定で借り受けたが、右債務については利息一ケ月分金一万二、〇〇〇円の天引を受け、手取金二八万二、〇〇〇円を受け取り、約定の弁済期日にこれを弁済し、その間毎月約定利息として金一万二、〇〇〇円宛、合計金一四万四、〇〇〇円を支払つた。

よつて、右天引利息を元金に充当し、支払利息のうち制限利率年一割八分を超過する部分を残元金の内払に充当し、更に、前記(イ)の過払額金六一万三、四六二円を過払日の昭和三一年一二月二五日において算入充当するときは、別紙第二表のごとく、借受金三〇万円は弁済期日において既に金四三万二、一八五円の過払となり、同日元金三〇万円を支払つたので、合計金七三万二、一八五円の過払となる。

(ハ)  昭和三二年一月一三日借入金二〇〇万円について

第一審被告四方田喜一は、従前主張のとおり、第一審原告から昭和三二年一月一三日金二〇〇万円を、事実上は前記(イ)の借受債務の継続として、利息一ケ月四分、毎月一三日前払、弁済期日同年一二月二八日の約定で借り受けたが、右債務については、利息一ケ月分金八万円の天引を受け、手取額金一九二万円を受け取り、約定の弁済期日にこれを弁済し、その間毎月一三日約定利息として金八万円宛(但し、同年一二月一三日支払分は、同月二八日までの金四万二、〇〇〇円)、合計金九二万二、〇〇〇円を支払つた。

よつて、右天引利息を元本に充当し、支払利息のうち制限利率超過部分を残元金の内払に充当し、更に、右(ロ)の過払金七三万二、一八五円を過払日の昭和三二年七月三〇日において算入充当するときは、別紙第三表のごとく元金二〇〇万円は弁済期日において残元金五四万三、九五八円となり、同日金二〇〇万円を支払つたので、差引金一四五万六、〇四二円の過払となる。

(ニ)  昭和三二年七月三〇日借入金八〇万円及び同年一二月三〇日借入金九〇万円について

第一審被告四方田喜一は、従前主張のごとく、第一審原告から昭和三二年七月三〇日金八〇万円を、事実上は前記(ロ)の借受債務の借増として、利息一ケ月四分、毎月払、弁済期日昭和三三年七月三〇日の約定で借り受け、利息一ケ月分金三万二、〇〇〇円の天引を受け、手取額金七六万八、〇〇〇円を受け取つたが、同年一二月三〇日に前払すべき昭和三三年一月三〇日までの利息を支払うことができなかつたので、同日右利息額金三万二、〇〇〇円と将来借受を予定していた後記(ホ)の金二〇〇万円の借受債務に対する一ケ月分の前払利息金八万円との合計額金一一万二、〇〇〇円を支払うこととし、そのうち金一万二、〇〇〇円を現金で支払い、残額金一〇万円を右借受元金に加算してこれを金九〇万円とし、弁済期日を昭和三三年一二月二五日とする準消費貸借を締結した。そして、その間昭和三二年七月三〇日から同年一一月三〇日までは借受元金八〇万円に対する約定利息として毎月金三万二、〇〇〇円宛、合計金一六万円を前払をもつて支払い、同年一二月三〇日に前示のごとく金三万二、〇〇〇円を支払つたこととしたほか、現金一万二、〇〇〇円を支払い、昭和三三年一月三〇日から同年六月三〇日までは借受元金九〇万円に対する約定利息として毎月金三万六、〇〇〇円宛、合計金二一万六、〇〇〇円をそれぞれ前払した。

従つて、右天引利息を元金に充当し、支払利息のうち法定利率年一割八分を超過する部分を元本に充当し、更に前記(ハ)の過払金一四五万六、〇四二円を昭和三二年一二月三〇日において支払額に算入充当するときは、別紙第四表のごとく、元金九〇万円は昭和三二年一二月三〇日において既に完済せられたこととなるばかりでなく、却つて金六九万二、六三四円の過払となり、その後の支払利息を加算するときは、昭和三三年六月三〇日現在において金九〇万八、六三四円の支払超過となる。

(ホ)  昭和三三年一月一一日借入金二一〇万円について

第一審被告四方田喜一は、従前主張のごとく、第一審原告から昭和三三年一月一一日金二〇〇万円を、事実上は前記(ハ)の借受債務の継続として、利息一ケ月四分、毎月前払、弁済期日同年一二月二五日の約定で借り受け、その二、三日前に借り受けた金一〇万円)利息一ケ月四分の約定により金四、〇〇〇円天引、手取額金九万六、〇〇〇円)を加算のうえ、元金を二一〇万円とし、同日金二〇〇万円の交付を受けた。

右債務については、前記(ニ)に述べたごとく、金二〇〇万円に対する一ケ月分の約定利息は前払済であり、その後同年六月一一日まで右前払利息を含み毎月一一日金八万四、〇〇〇円宛、同年七月一一日金三万二、〇〇〇円、合計金五三万六、〇〇〇円を支払つた。

従つて、右支払利息の法定利率年一割五分を超過する部分を元本に充当し、なお前記(ニ)の超過支払額金九〇万八、六三四円を過払日の昭和三三年六月三〇日において算入充当するときは、別紙第五表のごとく、元金二一〇万円は昭和三三年七月一一日現在において金八一万四、三六〇円が残存するに過ぎない。

(ヘ)  而して、仮りに第一審原告主張のごとく、前記借受債務のうち金九〇万円が本件家屋によつて代物弁済せられ消滅したものとすれば、右残存債務額は全額消滅に帰し、却つて金八万五、六四〇円の支払超過となる。

(三)  本件約束手形は、右(ホ)の借受債務につきその弁済のため振出交付したものであるから、右借受債務が上記のように消滅した以上、右手形金額全額の支払を求める第一審原告の請求は失当である。

三、第一審原告が自白取消の理由として主張する事実を争い、右自白の取消に異議を止める。

四、若し右自白の取消が理由ありとされ、第一審原告主張のとおり、前記二、(ニ)(イ)の借受元金は金五〇万円に過ぎず、同(ロ)及び(ニ)の各借受債務は全く存在しなかつたものと認定されるとすれば、第一審被告等としては左のとおり不当利得返還請求権を自働債権とする相殺を主張する。すなわち、

(一)  前記二、(二)(イ)に述べたごとく、第一審被告四方田喜一は昭和三一年二月一三日借入金二〇〇万円の債務に対する約定利息として合計金八三万四、六六六円を支払い、元金の弁済として金二〇〇万円を支払つた。右借受債務が元金五〇万円であつたとすれば、各支払額の四分の三、合計金二一二万五、九九二円は、いずれも債務なくして支払われたものである。

(二)  前記二、(二)(ロ)及び(ハ)に述べたごとく、第一審被告四方田喜一は、昭和三一年七月三〇日借入金三〇万円に対する約定利息及び元金の弁済として合計金四四万四、〇〇〇円、昭和三二年七月三〇日借入金八〇万円及び同年一二月三〇日準消費貸借の目的とした金九〇万円に対する約定利息として合計金四二万円を、それぞれ支払つた。従つて、右各借受債務が、いずれも全く存在しなかつたものとすれば、右支払額合計金八六万四、〇〇〇円は、全額債務なくして支払われたものとなる。

(三)  従つて、右(一)(二)の支払額合計金二九八万九、九九二円は非債弁済であつて、第一審原告の不当に利得したものであるから、第一審被告四方田喜一においてその返還を請求し、第一審原告主張の本訴請求債権と対等額において相殺する。よつて、第一審原告主張の債権は全額相殺により消滅に帰したものといわなければならない。

(立証省略)

理由

第一審原告がその主張の本件約束手形を支払期日に支払場所において提示し、その支払を求めたところこれを拒絶されたことは当事者の間に争がなく、第一審原告が現に右約束手形の所持人であることは第一審被告等の明らかに争わないところである。そして、本件約束手形であること弁論の全趣旨に照し明らかな甲第一号証の一の記載によれば、右約束手形の受取人は四方田園子であつて、第一裏書は四方田園子から第一審原告宛をもつてなされていることが明らかであるから、右受取人の記載はいつたん第一審原告宛をもつて振出されたが、その後振出人である第一審被告四方田喜一においてこれを右のごとく訂正したものであることは、第一審原告の自陳するところであるけれども、右訂正後の記載によれば、右手形の形式上第一審原告に至る裏書の連続に欠けるところはないものといわなければならない。

よつて、第一審被告等の抗弁について判断する。

一、第一審被告四方田園子は、本件約束手形の同人の裏書は偽造である旨を主張するから、まず、この点について判断する。

(一)  当審及び原審における第一審原告並びに同第一審被告四方田喜一の供述によると、右裏書の署名押印は第一審被告四方田喜一が右約束手形の振出の際に、自ら第一審被告四方田園子の代理人として同人の印を使用してなしたものであることを認めるに十分である。第一審原告は、第一審被告四方田喜一が右裏書の署名押印をなすについて第一審被告四方田園子から適法な代理権を授与されていた旨を主張するけれども、右主張事実を肯認するに足る的確な証拠は存しないから、右主張は採用できない。

(二)  第一審原告は更に右第一審被告四方田喜一の裏書行為について表見代理を主張するところ、同人が第一審被告四方田園子の同居している実子であることは当審証人四方田和子の証言によつて明らかであるけれども、第一審被告四方田喜一が本件約束手形の原因となつた金二一〇万円の借受をなすにあたり、第一審被告四方田園子がその連帯保証の責に任ずべきことを承諾し、第一審原告との間に右連帯保証契約を締結し、その旨の公正証書を作成すべき代理権を第一審被告四方田喜一に対して授与した旨の第一審原告主張事実については、原審及び当審における第一審原告本人尋問の結果中右主張に添うごとき供述部分は、原審における第一審被告四方田園子並びに原審及び当審における第一審被告四方田喜一の各本人尋問の結果に照してにわかに措信し難く、甲第九号証の一、二については当審における第一審原告本人の供述によつても原本の存在及び成立の真正を認めるに十分でないから、とつてもつて右主張事実肯認の資料となすことができず、他に右主張事実を認めるに足る証拠は存しない。却つて、右第一審被告両名の各本人尋問の結果に、原審及び当審における証人四方田和子の証言を併せ考えると、第一審被告四方田喜一は、前記金二一〇万円の借受に際して、第一審被告四方田園子に無断で同人の印を持ち出し、第一審原告に対して同人が債務につき連帯保証することを承諾している旨を申し向けたうえ、右印を使用して同人名義の本件約束手形の裏書及び公正証書作成に関する委任状を作成したものであつて、第一審被告四方田園子は第一審被告四方田喜一に対してこのような代理権を授与したことはなく、後日原告の代理人である南正雄から支払の要求を受けるまで右事実を知らなかつたことを認めることができる。その他、第一審被告四方田喜一が同四方田園子を代理し得べきなんらかの基本代理権を有した事実を認めるに足る証拠はないから、右表見代理の主張も採用し難い。

(三)  第一審原告は、さらに、第一審被告四方田園子が右第一審被告四方田喜一の無権代理行為を追認した旨を主張し、原審証人南正雄は、第一審原告の代理人として第一審被告四方田園子に対して本件約束手形金の支払を請求した際、同人が右裏書の効力を承認し、その支払を約したかのごとき供述をしているけれども、右供述部分は、原審及び当審証人四方田和子の証言並びに原審における第一審被告四方田園子本人尋問の結果に照すときは、第一審被告四方田園子の右追認の事実を肯認せしめるに十分でなく、同人が第一審被告四方田喜一の親として他人に迷惑をかけることを心配し、道義的責任として弁済に尽力をすべきことを約した事実を推認させるに止まるものというべきであつて、当審における第一審原告本人の此の点に関する供述部分も南正雄からの報告に基づくものであるから、直ちに、措信することはできない。他に右追認の事実を認めるにたる証拠は存しないから、右主張も採用に由ないものとなさざるを得ない。

右のとおりであるから、第一審被告四方田園子は本件約束手形について裏書人としての責任を負うべき限りではないものというべく、第一審原告の同人に対する本訴請求は失当たるを免れない。

二、第一審被告四方田喜一の抗弁について、順次判断する。

(一)  第一審被告四方田喜一は、本件約束手形は、同人が第一審原告から金員を借り受けるにつき、その借用証書の代用として交付したもので、手形として有効に振出をなす意思をもつて作成交付したものではない旨を主張するけれども、右主張事実を肯認するにたる証拠は存しないから、右主張は採用できない。

(二)  次に、第一審被告四方田喜一は、本件約束手形の原因債権につき代物弁済により消滅した旨を主張する。

本件約束手形は、第一審被告四方田喜一が昭和三三年一月一一日第一審原告から金二一〇万円を弁済期日同年一二月二五日、利息一ケ月四分前払の約定で借り受け、その支払のために振出されたものであること、第一審被告四方田喜一が昭和三二年一月一三日第一審原告から金二〇〇万円を弁済期日同年一二月二八日、利息一ヶ月四分の約定で借り受け、これとさきに昭和三一年七月三〇日、利息一ケ月四分、弁済期日昭和三二年七月三〇日の約定で借り受けた金三〇万円との合計金額について、本件家屋を目的としてその主張の抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、その後昭和三二年七月三〇日右金三〇万円を弁済したうえ、改めて同日金八〇万円を前同様利息一ケ月四分の約定で借り受け、右借受金と前記二三〇万円の借受金中の未払分二〇〇万円との合計金二三〇万円の元利金についても、本件家屋についての前記抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全の仮登記を利用しこれを担保することとし、その被担保債権額を金二八〇万円の元利金としたこと、更に同年一二月二八日右借受金二八〇万円のうち金二〇〇万円を弁済し、残金八〇万円については、これに対する同年一二月分の約定利息金三万二、〇〇〇円及び将来借受を予定していた金二〇〇万円に対する前払利息金八万円を加えた合計金九一万二、〇〇〇円のうち金一万二、〇〇〇円を現金をもつて支払い、残額金九〇万円とし、同日右金九〇万円を目的として準消費貸借契約を締結し、右金九〇万円について前記各登記を利用し本件家屋をもつて担保することとしたこと、第一審原告が昭和三三年八月一三日右代物弁済の権利を行使し本件家屋の所有権移転登記を経由したことについては、いずれも、当事者の間に争がない。第一審原告は、右昭和三一年七月三〇日貸付金三〇万円昭和三二年七月三〇日貸付金八〇万円、同年一二月二八日準消費貸借による貸付金九〇万円について、消費貸借契約及び準消費貸借の締結及び弁済の事実を争い、原審においてこれを認めた自白を取り消す旨を主張し、右自白は錯誤に基づき真実に反する旨を主張するけれども、この点に関する当審における第一審原告本人尋問の結果は、当審における第一審被告四方田喜一の供述に照してにわかに措信し難く、他に右主張事実を認めるにたる証拠はないから、右自白の取消は許されないところとなさざるを得ない。

然しながら、昭和三三年一月一一日前記金二一〇万円の借受に際して、本件家屋をもつて右借受債務をも担保することとし、前記準消費貸借による金九〇万円と併せ合計金三〇〇万円をその被担保債権額とする特約が成立したとの点については、右主張に添うごとき原審及び当審証人四方田和子、原審及び当審における第一審被告四方田喜一の各供述部分は、原審及び当審における第一審原告本人の供述に照してたやすく措信し難く、他に右主張事実を認めるにたる証拠は存しない。却つて、原審及び当審における第一審原告本人の供述によれば、本件家屋は担保価値に乏しく第一審原告は当初貸金額のうち金二〇万円を限り代物弁済に充てるつもりであつたが、前記貸借関係の推移に伴い、特に第一審被告四方田喜一と合意のうえ、その被担保債権額の範囲を前記金九〇万円の元利金に拡張し、その代物弁済に充てることとし、結局右金額について権利の行使をなしたものであつて、金二一〇万円の消費貸借に際しては、第一審被告四方田園子も連帯して保証の責に任ずべき旨の第一審被告四方田喜一の申出を信頼し(但し、この申出が第一審被告四方田園子の承諾を得たものと認め難いことは前認定のとおりである。)他に特段の担保をとらなかつたことを認めることができるから、右代物弁済によつて消滅した債権は、右金九〇万円の元利金債権のみであると認めるを相当とし、前記金二一〇万円の債権もともに代物弁済によつて消滅したとする主張はとうてい採用できない。

(三)  更に、第一審被告四方田喜一は、前記本件約束手形の原因債権につき、法定利率超過支払利息の元本への充当を求め、これを前記数次にわたる貸借を通じて算入すべき旨を主張する。本件約束手形は第一審被告四方田喜一が昭和三三年一月一日第一審原告から金二一〇万円を借り受け、その弁済のために振出されたものであることは前示のとおりであつて、このほかに、第一審被告四方田喜一が第一審原告との間において昭和三一年七月三〇日金三〇万円、昭和三二年一月一三日金二〇〇万円をそれぞれ借り受け、いずれもこれを任意弁済し、次いで昭和三二年七月三〇日金八〇万円を借り受けたうえ、同年一二月三〇日右借受債務を主たる目的として金九〇万円の準消費貸借を締結し、更に昭和三三年一月一一日本件約束手形の基本となつた金二一〇万円の消費貸借を締結したことも、前認定のとおりである。そして、成立に争のない甲第六号証及び乙第五号証に当審における第一審被告四方田喜一本人尋問の結果を併せ考えると、第一審被告四方田喜一が前記各消費貸借のほかに、右各契約の締結前である昭和三一年二月一三日第一審原告から、金二〇〇万円を弁済期日昭和三二年一月二五日、利息一ケ月四分、毎月前払の約定で、利息一ケ月分天引のうえ借り受け、昭和三一年一二月二五日にこれを完済したことを認めることができる。第一審原告本人の右認定に反する供述部分は、右各証拠に対比してにわかに措信し難く、他に右認定を左右するにたる資料は存しない。

然しながら、第一審被告四方田喜一の主張するごとく、右昭和三一年二月一三日金二〇〇万円の消費貸借の成立に際して、爾後引き続き返済と貸借を繰り返し、借受金の一部を弁済しても元利金の清算をなすことなく、また直ちに借増をなし、継続的に消費貸借を行う旨の約定が成立したことを認めるに足る証拠はないから、右消費貸借及びその後に成立した前記各消費貸借は、いずれも、各個独立の契約であると認めるほかはなく、右のごとく、貸借と弁済との関係が前後数次にわたつて反復され、その間前記のごとく特定の債権相互の間に担保権を流用する特約がなされた事実があるとしても、他に特段の事情の認むべきもののない以上、これをもつて前後を通じて一個の消費貸借と同一視し得るような関係にあるものと断ずることはできないものといわなければならない。

ところで金銭を目的とする消費貸借において、債務者が利息制限法所定の制限利率を超過する利息の支払をなした場合には、たとえ、債務者がこれを任意に支払つたときでも元本の残存する限り、右超過支払部分を元本の弁済に充当すべきものとすることは、同法第二条、第一条第二項の律意に適うものと解すべきであるけれども、同一人間に連続的に締結された数個の消費貸借相互の間において、単にそれが連続的になされたとの理由のみで、右の理をこれに推し及ぼし、既に完済せられて消滅した債務について任意支払つた過払額を後の別個に成立した債務の弁済にまで算入充当することを許すがごときは、利息制限法の前記条項の解釈を逸脱するものといわなければならない。これを本件についてみるに、第一審原告と第一審被告四方田喜一との間において数回にわたり連続して消費貸借が締結されたことは前示のとおりであるけれども、各消費貸借はそれぞれ別個独立の契約であつて、しかも、本件約束手形の原因債権のほかは、すべて任意の弁済又は代物弁済によつて消滅していることも前示のとおりであるから、右各債務相互の間において一の債務に対する過払利息額及び元本支払額を他の債務の弁済に充当することは、とうてい許されないところというほかはなく、この点に関する第一審被告四方田喜一の主張は、各支払の有無、数額についての判断をなすまでもなく失当というほかはない。

ただ、右本件約束手形の原因債務に対する弁済額の範囲内において、任意支払われた制限超過利息額を元本に充当することは、前記のとおり許されるものと解するから、以下右充当関係について検討する。

まず、原審における第一審被告四方田喜一本人尋問の結果に弁論の全趣旨を参酌して考えると、右債務は、昭和三三年一月一一日金二〇〇万円を借り受けるに際し、別途借り受けていた金一〇万円の債務を合算し、これを金二一〇万円としたものであること、右債務に対し第一審被告四方田喜一は、同年二月一一日から同年六月一一日まで毎月一一日に約定利率一ケ月分の割合による金八万四、〇〇〇円宛を支払い、同年七月一一日に同月一二日から同年八月一一日までの利息の内払として金三万二、〇〇〇円を支払つたことが認められる。第一審被告四方田喜一は、右支払額のほかに月四分の割合による約定利息一ケ月分の天引を受けた旨を主張するけれども、金一〇万円については右天引のなされた事実を認めるにたる証拠はなく、また、右金二〇〇万円については、当初の一ケ月分の利息金八万円は他の債務と併せた金九〇万円の準消費貸借の目的とされ、右金九〇万円の元利金全額がその後本件家屋をもつて代物弁済せられたものであつて、金二〇〇万円の消費貸借の成立当時金八万円が現実に支払われたものではないこと前記のとおりであるから、右利息金八万円についてはこれを目的とする右準消費貸借の成否に関し問題とし得る余地は存するとしても、これをもつて本件右金二〇〇万円の債務に対し現実の支払がなされたものとして、制限利率超過額の支払または天引がなされた場合と同一視し、これを基準とした算入をなすことは許されないものというべく、結局本件右金二一〇万円の債務については、第一回の利息支払期日である昭和三三年二月一一日の前日までの一ケ月分の利息は元本全額につき別途清算済とする約旨であつて、本件においては同日現在の残存元本額を金二一〇万円とし、これに対しその後に発生する利息の充当関係を算定すれば足りるものというべきである。よつて、これに従い、前記支払額を各支払日における残存元本に対する法定の利息にまず充当し、残額を元本の弁済に順次充当するときは、別紙第六表の通り(但し、計算の途上における円位未満の端数は切捨てた。)昭和三三年八月一〇日までの利息は支払済となり同日現在における金二一〇万円の残存元本は金一七九万三、〇〇九円となることが明らかである。

従つて、右債務弁済のために振出交付された本件約束手形は右金額の限度において、有効であつて、第一審原告の第一審被告四方田喜一に対する本訴請求は、右限度において理由があるが、その余は失当たるを免れない。

以上の次第であるから、第一審原告の本訴請求は、第一審被告四方田喜一に対し本件約束手形金額のうち金一七九万三、〇〇九円およびこれに対する右約束手形の支払期日後であつて本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三四年一月一八日から右支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるが、その余の請求及び第一審被告四方田園子に対する請求は失当たるを免れない。従つて、原判決中、第一審被告四方田喜一に対する本件約束手形金全額の請求を認容した部分は一部失当であるから同被告の本件控訴は一部理由があり、第一審被告四方田園子に対する請求を棄却した部分は正当であつて第一審原告の控訴は理由がないところ、第一審原告は当審において第一審被告両名に対する金二〇万円及び金一〇万円の各手形金請求部分を取り下げ、原判決中、右請求に関する部分はその効力を失うに至つたので、原判決主文中右関係部分を変更することとし、訴訟費用の負担については第一審原告と第一審被告四方田園子との間において生じた訴訟費用の全部及びその余の費用の一部を第一審原告に負担させる趣旨で民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項但書、第九六条を適用し主文のとおり判決する。

(別紙)

第一表

〈省略〉

同日 差引過払残 六一三、四六二

第二表

〈省略〉

同日 差引過払残 七三二、一八五

第三表

〈省略〉

同日 差引過払残 一、四五六、〇四二

第四表

〈省略〉

同日 差引過払残 九〇八、六三四

第五表

〈省略〉

第六表

〈省略〉

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